「利根の渡」(岡本綺堂)

時代を超えて読み手の心を掴む作家・岡本綺堂

「利根の渡」(岡本綺堂)
(「日本文学100年の名作第2巻」)
 新潮文庫

「日本文学100年の名作第2巻」新潮文庫

利根川のほとりに現れた
一人の座頭は、
来る日も来る日も渡し場で
「野村彦右衛門」なる人物を探す。
気のいい渡し小屋の
老人の勧めで、座頭は
老人の小屋に同居する。
ある夜、老人が目覚めると、
座頭は一心に
太い針を研いでいた…。

何やらおどろおどろしい内容です。
それもそのはず、
本作品は怪談物語形式である
「百物語」(百本の蠟燭をともし、
一つの怪談の語りが終わるたびに
一本ずつ消していく。
百本すべて消し終えたとき、
妖怪が現れるという)の
一篇なのですから。

本作品の味わいどころ①
座頭が夜な夜な狂気を手入れする恐怖

素性の知れない同居人が
夜中に一心不乱に
凶器の手入れをしている。
想像しただけでも恐怖です。
しかもその後、その太い針で毎日、
魚の目玉を突く練習をする場面も
描かれているのです。
この座頭は復讐の機会を
うかがっていること、
その対象は「野村彦左衛門」なる
侍であることが、
多くが語られていない前半部ですでに
十分察することができます。

本作品の味わいどころ②
それは呪いか、人の運命の妙

やがて座頭は病を得て、
寿命が尽きる寸前に、
自らの過去を老人に語ります。
座頭の正体、
そして座頭と野村彦右衛門との
関係が明らかになります。
座頭は静かに寿命を終えるのですが、
物語はそれで終わりません。
そこから仇である野村彦右衛門もまた
数奇な運命を辿っていたことが
語られていくのです。
座頭の呪いとしかいいようのない
幕切れに、慄然とさせられます。

さて、作者・岡本綺堂は、
明治5年生まれ、昭和14年に
すでに亡くなった作家ですが、
その作品は今も根強く
読者の心を捉えています。
作品としてもっとも有名なのは
「半七捕物帳」でしょうか
(私などは「銭形平次」の野村胡堂と
いつも混同してしまうのですが)。
2001年に光文社文庫より
全6巻で復刊されています。
「怪談もの」では、本作品を収録した
「青蛙堂鬼談」(1925年)や、
その前年に発表された
「三浦老人昔話」といった
連作短編集が秀逸です。
こうした「怪談もの」は、2012年以降、
中公文庫から現在8冊が
刊行されています。
また、傑作「修禅寺物語」
(日本を代表するオペラの台本として
有名)も、今年7月に光文社文庫から
「修禅寺物語 新装増補版」として
復刊しています。
時代を超えて
読み手の心を掴む作家・岡本綺堂の
作品を読んでみませんか。

〔「日本文学100年の名作 第2巻」〕
1924|島守 中勘助
1925|利根の渡 岡本綺堂
1926|Kの昇天 梶井基次郎
1926|食堂 島崎藤村
1928|渦巻ける烏の群 黒島伝治
1928|幸福の持参者 加能作次郎
1928|瓶詰地獄 夢野久作
1930|遺産 水上瀧太郎
1930|機関車に巣喰う 龍胆寺雄
1931|風琴と魚の町 林芙美子
1932|地下室アントンの一夜 尾崎翠
1932|薔薇盗人 上林暁
1932|麦藁帽子 堀辰雄
1933|詩人 大佛次郎
1933|訓練されたる人情 広津和郎

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アンソロジーとして本作品一話だけ
 抜き出したため、冒頭の
 「星崎さんの話のすむあいだに~
 そこで、第二の男は語る。」の一節が
 どこにもつながらなくなっているのが
 玉に瑕ですが。

(2021.10.9)

〔追記〕
先日、ちくま文庫刊
「怪奇探偵小説傑作選1 岡本綺堂集」を
買いました。
こちらには本作品を含む「青蛙堂鬼談」が
すべて収録されています。

「怪奇探偵小説傑作選1 岡本綺堂集」

〔「怪奇探偵小説傑作選1 岡本綺堂集」〕
青蛙神
利根の渡
兄妹の魂
猿の眼
蛇精
清水の井
窯変

一本足の女
黄いろい紙
笛塚
竜馬の池
木曾の旅人
水鬼
鰻に呪われた男
蛔虫
河鹿
麻畑の一夜
経帷子の秘密
慈悲心鳥
鴛鴦鏡
月の夜がたり
西瓜
影を踏まれた女
白髪鬼

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(2023.4.11)

aalmeidahによるPixabayからの画像

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